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特任助教 竹下浩平先生がNature Structure & Molecular Biology誌で論文を発表!

 Academic Achievements and Awards
2014.3.6  

本プログラム特任助教・竹下浩平先生の論文が、Nature Structure & Molecular Biology 誌にアクセプトされました。オンライン速報として3月2日18時 (グリニッジ標準時)にweb上に掲載されました。すばらしい論文の採択、おめでとうございます! (阪大速報リンクhttp://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2014/20140303_1

以下、竹下先生の論文概要です。


電気信号により制御される水素イオンチャネルの形を原子レベルで解明

−創薬研究から分子デバイスへの応用まで、大きな波及効果に期待−

  • 生物の電気信号による情報伝達や病原菌の退治などで重要な水素イオンの微小な流れを制御する分子の仕組みを解明
  • さまざまな創薬のターゲットとなる膜タンパク質の動作原理を詳しく解明できるスーパーモデル・イオンチャネル
  • 創薬研究から分子デバイスへの応用まで、大きな波及効果の可能性

*        概要

大阪大学・未来戦略機構第二部門特任教員の竹下浩平招(蛋白質研究所)、岡村康司教授(大学院医学系研究科/IPBSプログラム副コーディネーター)、中川敦史教授(蛋白質研究所/IPBSプログラム教員)の研究チームは、電気信号(膜電位)を利用して我々の体が病原菌を退治する際に水素イオンの流れを制御する電位センサー型水素イオンチャネルのかたちを原子レベルで解明し、必要な時だけうまく水素イオンを通す仕組みを明らかにしました。これにより水素イオンの出入り口に蓋をするような化合物設計も可能となり、様々な病気に対する新規医薬品開発などに繋がることも期待されます。神経伝達や心臓の拍動に電気信号が使われていることは従来から広く知られていますが、今回明らかになった構造は、生体内での電気信号がどのように制御されているかについて、原子レベルでの詳細な情報を与える重要な成果です。

この研究成果は、水素イオンと生体防御ならびに様々な疾患の原因を考える上でも重要な発見であり、米国Nature Structure & Molecular Biology誌(3月2日(日)グリニッジ標準時18時)に発表されました。

*        研究の背景

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水素イオンはpHの実体であり生体環境を維持する働きを担っています。電位センサー型水素イオンチャネル(プロトンチャネル)は2006年に本研究チームの岡村康司教授によって発見された水素イオン専用の通り道タンパク質です。この分子は細胞膜の中に水素イオンの通り道を作りますが、常に開いているわけではなく、内蔵されたセンサーが電気信号を感知したときのみ開きます。このタンパク質は電位センサーとして、細胞内外の電位の変化を感知しますが、電位を感じるということは神経伝達や心臓の拍動などでも使われる、生体内で最も重要な機構の一つです。

しかし、この水素イオンチャネルが、「必要な時以外はどうやって最も小さなイオンである水素イオンを漏らさないのか?」、「細胞の内と外の電位差の変化を感知するセンサーはどこにあるのか?」といったことはわかっていませんでした。大阪大学の研究チームでは、水素イオンチャネルの原子構造を大型放射光施設SPring-8(兵庫県)にある大阪大学蛋白質研究所の専用ビームライン(BL44XU)を使用し解析を進め、亜鉛イオンが留め金となって和傘が閉じるように水素イオンの通り道を閉じていることが分かりました。さらにセンサーは和傘の軸にあたる部分にあり上下にスライドすることで水素イオンの通り道を開けたり閉めたりすることも分かりました。これによって水素イオンを通す一方で、必要時以外は最小のイオンを絶対に漏らさない機構が存在することを明らかにしました。

脳や精巣の局所では亜鉛イオン濃度が高く、神経系細胞や精子の水素イオンチャネルは亜鉛イオンが留め金となって通路がふさがっていますが、神経活動の変化や、射精などによって細胞周囲の亜鉛濃度が変わると、留め金がはずれ局所のpHが変化し、精子の運動性などが引き起こされると考えられます。今回水素チャネルの構造が解明されたことで、このような生命現象の新たな仕組みが明らかになると期待されます。  

このタンパク質は、ヒトで働くイオン透過タンパク(イオンチャネル)のうち最も小さな分子のひとつであり、スリムなスーパーモデル・イオンチャネルです。コンパクトながら多彩な機能を操るこの分子を詳しく研究することで、さまざまな創薬のターゲットとなる膜タンパク質の動作原理が詳しく解明できます。このことから、創薬研究から分子デバイスへの応用まで、大きな波及効果の可能性があります。

本研究は、文部科学省「ターゲットタンパク研究プログラム」において、我が国発の構造・機能解析が重要なインパクトを与えるタンパク質の一つとして研究が進められてきました。

*        本研究成果が社会に与える影響(本研究成果の意義)

 イオンチャネルは心疾患、神経疾患、糖尿病など、種々の疾患に関連したタンパク質であり、その「形」と「働き」を原子レベルで解析した本研究の結果は、生命活動に重要な電気信号がどのように働いているかを理解する上で重要な成果です。また、本成果は、降圧剤、抗不整脈薬、麻酔薬など多くの薬のターゲットである電位センサーを持ったイオンチャネルに共通する原理の究明に繋がり、今後、神経系や免疫関連疾患の治療薬の開発への道を開くものといえます。

*        論文掲載情報

Takeshita, K., Sakata, S., Yamashita, E., Fujiwara, Y., Kawanabe, A., Kurokawa,T., Okochi, Y., Matsuda, M., Narita, H., Okamura, Y., Nakagawa, A.

" Xray crystal structure of voltagegated proton channel"

「電位センサー型水素イオンチャネルは閉じた和傘様のかたちをして水素イオンの通り道を塞いでいる。」

Nature Structure & Molecular Biology 誌にオンライン速報として3月2日18時 (グリニッジ標準時)にweb上に掲載されます。

*        特記事項

本成果は、文部科学省「ターゲットタンパク研究プログラム」http://www.tanpaku.org/による研究として得られました。

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未来戦略機構第二部門所属
竹下浩平特任助教